カピバラを軸に、世界の警察を語る。中編:共産・植民警察

著者:竹本 智志

著者:竹本 智志

カピバラと無理やりからめて比較警察学を語るシリーズ第二弾。今回は共産国家と旧植民地の警察の職務や性格、歴史などを紹介する。なぜカピバラが語られているのか不思議に思った方は、まず前編をお読みいただきたい。

1. 共産・旧共産型警察:党と愉快な仲間たち

共産体制のもとの警察と聞いて、何が想像されるだろうか?おそらくチェーカーやKGBなどの秘密警察が行った粛清のイメージが強いのではないだろう。基本的に共産型の警察はヨーロッパの警察機構との共通点が多く、中央の憲兵と地方警察との間で職務が分担されていたと言われている。そのため、ヨーロッパ型の警察として分類できるのではないかという意見も多いが、ここではあえて旧説に従い、ソ連と中国に注目して共産型の警察を紹介しよう。

ソ連や中国をはじめとする共産圏の警察の特徴は、何をおいても政府や党とのつながりが強いことだ。特にソ連では共産党内から警察官を多くリクルートしていたため、共産党の意向が警察の仕事内容に大きく反映される特徴が強いと言える。そのため、憲法の上では独立しているはずである政府と警察との間の分権は、存在しなかったと言える(Solomon, 1987, p.72)。

しかしソ連と中国との間には、歴史的なコンテクストからして多くの相違点があり、警察のあり方にもそれが反映されている。ここにいくつか例を挙げよう。第一に、警官の武装の程度における差である。ソ連では共産党内と並んで軍から多くの警察官を採用していたため、警察官の階級も軍と互換性があり、全ての警官は常に銃を携帯していた。これに対して中国の警官は、伝統的に警察の大部分が非武装である。この違いから、両国の警察の職務内容の違いへと辿ることができる。すなわち、ソ連警察ではカウンター・インテリジェンス*など、政府の安定を保証することが多く占めたのに対し、中国ではパスポートや戸籍の管理、出生・死亡証明の発行などの行政職務が多く含まれたの。さらに、この職務内容の違いから、歴史的コンテクストを遡ることができる。初期のソヴィエトでは、国の総人口と比較して圧倒的な少数エリートであるボリシェビキが国政を担っていた。そのため、ボリシェビキ主導の体制を維持するためには、数で勝る大衆をうまくコントロールする必要があった。対して初期の中国ではマス・ラインと呼ばれるボトムアップ型の政策決定が執り行われていたため、すでに地方の農民層の後ろ盾が得られていた。これらのバックグラウンドの違いが、警察の職務や性格に違いを与えているのだ。このように考えると、それぞれの国の警察の特徴が浮き彫りになって面白い。

しかし、共産国家の警察はこうだ、と一括りにして語ることはできない。いずれの国の警察においても、最初に述べた通り共産党の影響や世界情勢が必ずと言って良いほど影響する。そのため、党の方針が変わるたびに警察の性格もコロコロと様変わりするのだ。ロシアでは最初、レーニンの指揮のもとに警察権の一部が工場組合に委譲され、民間自治の性格を帯びた警察が理想とされた。しかしその後スターリンにより集権化され、チェーカーと呼ばれる事実上の中央秘密警察(KGBの前身)の権限が大幅に強化される。しかしフルシチョフ政権では一転してドゥルジーナ志願警察部隊と呼ばれるボランティア警察が創設され、再び民間自治の推進と分権化が進められた。その後ロシア連邦となって共産イデオロギーこそ失われたものの、基本的な体質は受け継がれ、2011年の警察改革を経て集権化へと向かっている。一方の中国でも、マス・ラインの影響下で民間自治型であった警察は、大躍進政策や文化大革命を経て、共産党による中央集権化の性格を大幅に強めた。その後はさらに資本主義経済の導入もあいまって警察の職務内容も高度なものとなり、集権的な組織内での分業が推し進められており、今では治安維持のために準軍事組織として編成された、通称「武警」という部隊が影響力を持っている。異常を踏まえて、共産・旧共産国家の警察は政治からの影響を強く受けるため、今後の国家の方針や世界情勢によって大きく変化していくと予想される。警察をウォッチすることにより、政治戦略が垣間見えるかもしれない。

以上を踏まえて、脱走したカピバラが逃げおおせる希望は、残念ながら少ないと言える。何せソ連の警官は武装しており、中国の警官は行政職務の一環として本気で捕まえに来るのだろうから。いっそのこと共産党の一員となるのも手かもしれない。

共産・旧共産型警察の三要素:
 ・正統性:政府・党との強い関係、(特に初期は)市民の影響が強い
 ・構造 :ロシアでは武装傾向が強い
 ・機能 :政治的目的と行政職務が多い

*カウンター・インテリジェンス:防諜活動。他国や反体制派のスパイ活動を無力化し、秘密情報が漏れないように監視する活動一般。

2.  植民地型警察:日の沈まない帝国の何でも屋

ヨーロッパ人がアジアやアフリカ諸地域に植民した際に、当然ながら現地の治安を維持するための法律が必要になった。その場合には、本国の法律の大部分を引き継いだり、あるいは他のヨーロッパ諸国をモデルとして現地の法律を制定したりするのが通例である。しかし、警察システムはその中でも数少ない例外であったと言える。すなわち警察が治安を維持したり犯罪を取り締まったりする目的は、主に植民したヨーロッパ人の権利を保護するためであり、彼らの安全を脅かさないかぎり現地住民には基本的に無関心であったからだ。

これを踏まえて、旧植民地型の警察は大きく分けて二種類に分けられる。一つはポルトガルのように本国の警察システムをそっくりそのまま移植した場合であり、その場合にはそれは大陸ヨーロッパ型の警察として解釈できる。そしてもう一つは、イギリスのように独自の統治機構のもとで発達した警察機構である。ここでは主に英国式の植民地警察に注目して紹介しよう。

イギリスの対外進出は、イギリス本国からほど近いアイルランドから始まった。アイルランドはイギリスとは異なる宗教的・人種的バックグラウンドを持っており、古くは16世紀から独立をかけてイギリスと対峙してきた。広く知られている通り、アイルランドには今でも独立を目論むIRAという組織がある。しかしながらイギリスの影響は強く、アイルランドでは「同意のもとの統治」とはかけ離れた、イギリスによる一種の植民地支配とも言える状態が続いてきたと言える。先の記事で紹介した通り、イギリスの警察は地域住民の同意を得て行う「コミュニティー・ポリス」としての側面が強いため、「住民の同意なき警察システム」が手探りで開発されることとなった。これが大英帝国式の植民警察の発祥と言われている。

大英帝国全盛の時代に突入すると、アイルランドで培われたノウハウが広く応用されることとなった。しかし新たな植民地ではいくつもの問題があった。まず、「日の沈まない帝国」とも言われた大英帝国はとにかく広い。イギリス本国と比較すると、インドは13倍以上、ナイジェリアは4倍近くの広大な土地を持っている。そのため、イギリス中央政府だけでは管理しきれず、分権化が進められた。そうして現地の政府の管轄下に置かれた警察は、植民地省から派遣された官僚が仕切る役所の手続きなども多く担うようになった。次に、そのようにして少数の植民ヨーロッパ人が現地人を支配するためには、軍との連携が欠かせない。そのため、警察官は必ずしも武装はしていないものの、兵士としての転属も可能とされ、地方警察のトップである監察総監(inspector general)には軍の階級(准将相当)が与えられた。また犯罪の取締りに限らず、政治・社会運動が勢いをつけると、広い意味での治安維持が必要となってくる。大英帝国後期にインド独立運動やホンコンの共産主義運動が勢力をました際には、この対応も警察が主導した。イギリスの植民地警察はまさに何でも屋である。

しかし、イギリス人の保護に関する職務を何でもこなす一方で、現地住民に対する態度はまさに「us versus them」の構図を絵に描いたような強権であったと言える。本国のコミュニティー・ポリス政策とは反対に、警察は現地コミュニティーとのつながりを可能な限り排除するように取り計らった。警察官は階級に応じて現地からも採用されたが、現地住民との関係を断つために、本人と関わりのない地域や、あるいは別の植民地への着任を原則とした。上の香港警察の画像においても、インド人警官のみが銃を携帯しているのが分かるだろう。そのため、警察は基本的に地域のことには関心がなく、積極的に介入することは少なかった。皮肉にもこのことはコミュニティー・ポリスの究極の形ともいえる現地住民からなる自警団の活動を黙認する結果となった。

植民地時代の警察の特徴もさることながら、当時の影響が旧植民地の独立を経てもなお健在であることは興味深い。独立の直前、政情が不安定化するにつれて、イギリスを含む宗主国は警察官を増員し、武装を強化し、軍との連携をさらに強めた。これにより警察の強権的な性格が強まったのは容易に想像できる。しかし、独立後の混乱の中、これをなんとかして安定化させようと目論む新政府にとっても、そのような強権的な警察は有用に思えたのだ。その結果、インドなどでは、階級制度などが変わっただけで、リクルートのシステムや警察と住民との間の関係、警察のタスクなどはいまだに変わっていないのが実情である。

さて脱走したカピバラは、警察の無関心に助けられて幸運にも容易に逃げ切れるであろう。しかし間違っても植民したヨーロッパ人に噛み付いたりしないことだ。一度敵とみなされれば、何をされるか分からない。

旧植民地型警察の三要素:
 ・正統性:宗主国の覇権
 ・構造: 宗主国が取りまとめるが、一部分権化されており、軍との強い結びつき
 ・機能: 治安維持が主だが、行政職務なども幅広く行う

3. まとめ

今回紹介した共産型・植民地型警察は、前編で紹介したアングロ・アメリカ型警察や大陸ヨーロッパ型警察から何らかの影響を受けた派生型と言える。職務内容や歴史的コンテクストは異なるが、一言で言えば共産型警察は党の手先、植民警察は宗主国の手先である。しかしこれらの警察はそれぞれの国の歴史的コンテクストや動向を反映している点で、比較警察学の格好のテーマであると言えるだろう。

本当ならここで極東型(日本型)警察と宗教警察について言及するつもりであったが、意外にも長くなってしまったので次回に譲ろうと思う。次回、ついになぜ日本の警察がカピバラを追うのかという宿題が解決されるのでお楽しみに。

  • Mawby, R. I. (2013). Policing across the World: Issues for the Twenty-first Century. Routledge.

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この記事の投稿者情報

竹本智志
竹本 智志

専門分野:犯罪科学(警察学)・近代思想
ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)、ジル・ダンド研究所の保安・犯罪科学部に学ぶ。
紫洲書院の出版部を担当し、運営実務をまとめる。

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