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カピバラを軸に、世界の警察を語る。~前編~

1. 警察の「お国柄」

警察に対する人々の印象は世界でも様々だ。一般的には犯罪の防止や捜査、取り締まりなどが警察の仕事であると思われているであろうが、必ずしもそうではない。先日twitterにこんなつぶやきが投稿された:

脱走カピバラのツイート

脱走したカピバラの警察官による捕獲に協力した人のツイート(出典:togetter

なんともインパクトが強く、お堅い警察関連のトピックにしては不意打ちのようなツイートだ。公共交通機関の中で笑いをこらえるのに苦労したのが思い出される。日本を含む国々では、このような動物保護のリクエストも警察への通報に含まれるのだ。しかし、そもそも日本の警察はなぜ動物保護をも行うのだろうか?また、他の国ではどうなのだろうか?

警察という組織のあり方はそれぞれの国や地域の社会的・政治的な背景、犯罪の定義、これまでの警察と市民との関係性などにより大きく変化する。また、社会の歴史や政府機関のイデオロギーなどの影響力も大きく、結果的に警察のあり方はとても一口に語ることができない多様なものとなる。あいつぐ発砲事件や汚職などのネガティブな側面から、デモの鎮圧や犯罪捜査、カピバラの追跡など多種多様な仕事の内容にいたるまで、警察の性格はさまざまだ。そしてこれらの性格は、それぞれの国や地域ごとのカテゴリーに分けて考えることで説明できることも多い。ここでは、「そもそも警察とは何か?」という簡単な説明からはじめ、世界の警察がこなす仕事を、「脱走カピバラが捕まらないためにはどうすればいいのか?」という問いを中心に見ていこう。

2. 警察の三要素

そもそも警察という組織は社会にとってどのような存在であり、どのような役割を果たすことを望まれているのだろうか?警察という組織の発展は各国の成立などの歴史的なコンテクストにより大きく変化し、またその解釈も専門家によって異なる。自由・資本主義を受け入れる学者はそれに沿って警察をひいき目に捉え、一方でマルクス主義にかたむいた学者は階級闘争の一部として解釈するといった具合に。しかし、そうは言っても世界の警察は確かにそれぞれに固有の特徴を持っている。そしてそれらを比較するにあたって重要な要素は、大きく分けて「正当性」、「構造」、「機能」の3つと言われている。1つずつ見ていこう。

 1. 正当性「政府による認可を受け、暴力および特殊権限を独占的に行使すること」

警察の存在は、「正当」でなければならない。近年、さまざまな国で民間の警察などが台頭してきた。一方で、公的な警察はそれぞれが担当する地域における唯一の正当な組織である。例えば、殺人事件が起きたとしよう。この事態に対応するのは、政府から正当な権利を認められている警察であって、民間警察を含むそのほかのどのような組織もその現場にみだりに立ち入ることは許されていない。また、犯罪の捜査や摘発・逮捕(一部を除く)を行う権限も同様だ。すなわち、警察はこれらの行為におよぶ権利を「独占」しているということになる。

 2. 構造 :「タスクや専門性により細分化されたトップダウンの組織を持つこと」

警察は様々なユニットに分かれている。街のお巡りさんから刑事や機動隊まで、交通規制担当官から対テロ担当官まで、幅広いジャンルの仕事の専門家が所属している。このような各スペシャリストによる職務の分担にくわえて、「誰がどのように意思決定を行ったのか?」という責任の所在を明確にするためにトップダウンの構造を持つのも組織としての特徴だ。日本の警察もその例に漏れないため、警察庁のウェブサイトで公表されている組織図はまるで植物の根のような見た目になる。 

警察の組織図

日本の警察の組織図(出典:警察庁HP

3. 機能 :「法と秩序の維持および犯罪の防止・摘発を担当すること」

警察はその任務として、「法の執行」を行わなければならない。法の執行とは、市民が法律を守ること、また違反者が法に定められた罰則を受けることを保証することである。防犯活動を行ったり、犯罪を捜査して犯人を捕まえたりというのがこれにあたる。警察はこれら法の執行に関する権利を与えられ、これを任務とするものである。

これら3つはそのまま「警察の定義」として述べるには少し頼りないが、少なくとも世界の警察がそれぞれ固有の形で持っている項目であり、比較する際に用いられるものだ。これらの要素を軸にして、モービー(2013)は警察のあり方に関する6つのカテゴリーを提唱した。近年に提唱された修正案もふくめて、この「警察の国民性」を見ていこう。

3. 世界の警察の6分類

3-1. 旧型警察

バーミンガムの税務官

ノッティンガムの保安官

ロンドン市民による夜警

ロンドン市民による夜警

読者の皆さんが「警察の仕事」と聞いてイメージすることを警察という組織が担うようになったのは、実は近代以降の話である。封建制が主流だったそれまでの時代には、いわゆる警察という組織を持つ社会は半数以下であったとも言われている(Shwartz and Miller, 1964)。警察の比較研究は、産業革命以前の警察を一括りとして「旧型警察」とする場合が多い。

それでは、社会が警察を持たないとすれば、いったい誰が泥棒を捕まえるのか?この答えに対するキーワードは「共同体」である。そもそも「社会」と「共同体」とは別々の概念だ。国民に保護や福祉を与える国家や、労働の対価として給料を支払う会社など、何かの利益を目的に所属するような集団を社会と呼ぶ。その一方で、一般的により小さく、利益ではなく血縁や長年近隣に住んでいるなど、より密な関係性から生まれる集団を共同体という。「村社会」と言われるような文化を持った集団が共同体に近いイメージだ。旧型の警察では、そのような共同体の中で警察の役割が完結する場合が多かった。

具体的な特徴としては、地方の軍・警察・裁判所などのあいだに明確な線引きがないこと、また村の長老などを中心とした寄り合いをベースにそれらの役割が果たされることなどがあげられる(Hoebel, 2009)。例えば、北アメリカのインディアンであるシャイアン族の共同体では、軍人が警察官の役割を担っていたとされている。また中世イングランドでは税務官などの役人が警察を兼ねていた。これに加えてエドワード1世が施行した「ヒュー・アンド・クライ」という法律により、共同体の中の市民が通報と逮捕(少なくともそうしようと努力すること)の義務を負っていた。このような体制が効果的だったのは、そもそも集落が小さかったから、さらには共同体のなかに連帯の意識があったからだと言われている。

ヒュー・アンド・クライの様子

Fig.1: 中世イングランドのヒュー・アンド・クライ “Hue and cry” の様子。共同体(村)の損失は、すなわち個人の損失と同義であるため、皆で盗人を追いかける。(Bingham Heritageより引用)

旧型の警察では、脱走したカピバラは共同体の中の全員に追いかけ回されることになるだろう。カピバラが逃げきるためには、集落とできるだけ距離をとることが必要だ。

旧型警察の三要素:

・正当性:地域の共同体のリーダー(長老など)が権利を与える
・構造 :専門性はほとんどなく、色々な人が警察を兼ねている
・機能 :住民間の紛争解決など

3-2. アングロ・アメリカ型警察

イギリスの警官隊

イギリス、ロンドン警視庁の警察官(BBC Newsより引用)

ここからの5つのカテゴリーは、近代から現代にかけての警察に関するものだ。封建制が解かれたことで人々の移動に自由が生まれ、産業の発達とともに小さな共同体から都市社会が生まれるようになる。もはやお隣さんは見知った人ではなく、どこの誰かもわからないような状況だ。そうなればもはやこれまでの仕組みは機能しなくなり、法の執行のプロとしての警察が登場する。まずはイギリスとアメリカの警察について見ていこう。

イギリスとアメリカの現代警察は、旧型の警察のやり方を踏襲しており、一般的に「コミュニティー」を対象としている。多くの場合、警察の担当は地理をベースにして割り当てられており、それぞれの警察組織が担当する地域の住民とのコミュニケーションの上に成り立っている。警察官は「制服を着た市民」という扱いであり、そのため警察官は地元のコミュニティーからリクルートされる場合が多い。自分が生まれ育った地元に着任することで、そのコミュニティーの事情を理解し、これを仕事に反映することが求められているのだ。また、トップダウンに犯罪を取り締まるのではなく、コミュニティーが問題視している課題の解決に焦点を当てる場合が多い。つまり実際には強盗の発生率が高い地域であっても、強盗よりも落書きや不法投棄などを住民が問題視しているのならば、後者に多くのリソースが割り当てられる。現場や住民の意見を汲み取るボトムアップ式のやり方だ。

・・・というのが建前である。建前とはいかないまでも、現実問題としてこれを実行するのは非常に難しく、理想にすぎない。もしこのアプローチが本当に実行されたならば、アメリカであいつぐ警察官による射殺事件は起きようもないはずだ。しかし、アングロ・アメリカ型の警察は、ボトムアップの構造を持つからこそ社会的な要因の影響を受けやすく、結果として軍事的・攻撃的な性格を帯びやすいと言われている。コミュニティーと結びつきが強い警察官ならば、理論的にはフレンドリーに職務をこなせるはずである。しかし警察の経済事情も明るくはないため、必然的に「より少ない予算でより多くをこなす」ことが求められる。具体的には警察官一人当たりの管轄が年々広くなる。そうなれば当然一ヶ所の地域にかける時間は少なくなる訳だから、住民とのコミュニケーションも減る。このようにして理想的な警察のあり方の芽が摘まれてしまうのだ。

アングロ・アメリカ型の警察の理想に沿って考えれば、現在アメリカを中心に起きている警察の発砲問題にも、対策がないわけではない。例えば拳銃をテーザー(非殺傷型スタンガンの一種)に置き換えたり、コミュニティー・オフィサーと呼ばれる地域との対話に特化した警察官を大量に採用したりといったものが考えられる。だが、そもそも予算が少ない組織でこれを行うには無理がある。そのため、アングロ・アメリカ型の警察の実情は、与えられるさまざまなタスクをこなすために、妥協しつつも危うくバランスを取っているというのが実情と指摘されている(Mowby, 2012)。

あるカピバラが英米のコミュニティーにおいて住民らのトラブルとなっている場合、まず警察が出動する可能性が高い。そうでなければ、動物保護に特化した団体によってそのうち対処されることだろう。もしあなたがカピバラならば、トラブルにならないように目立つ行動を避け、また射殺されないためにも警察官に積極的に愛嬌を振りまいておくのがベターだ。

アングロ・アメリカ型警察の三要素:

・正当性:法治国家の原則にのっとり、コミュニティーとの社会契約を重視する
・構造 :専門性と細分化、地域ベースから中央集権への移行
・機能 :広い警察はコストがかかるため、「問題解決・秩序の維持、犯罪との闘争のバランス」

3-2. 大陸ヨーロッパ型警察

フランスの憲兵隊

武装状態のフランス国家憲兵(telesurより引用)

次に、イギリスを除いたヨーロッパの国々について見てみよう。

ヨーロッパの国々の警察は、国によってある程度異なる要素も多いが、アングロ・アメリカ型の警察と対比する形でひとくくりにされて考えられている。大陸ヨーロッパ型の警察の主な特徴は2つある。1つ目は警察が果たす機能だ。イギリス・アメリカの警察がこなす仕事のほとんどは、先述の通り、自らが担当するコミュニティーに焦点を当てたものである。対して大陸ヨーロッパ型の警察は、それに加えて政治的な任務を帯びることが多い。例えばフランス政府には伝統的に『高次警察任務(“High Policing”)』と呼ばれる業務が存在する。これはインテリジェンス(諜報活動)をベースに、国内外のリスクから体制を守るための警察任務である。政府の防衛を担うという点では、言ってしまえば、戦前・戦中の悪名高き日本の「特高警察」と同じようなものだ。2つ目の特徴は、このような警察の機能に起因する警察の構造である。意外と思われるかもしれないが、一般的に大陸ヨーロッパ型の警察は、英米の警察に比べて集権的・軍事的な性格が強いと言われる。そのためか、コミュニティベースの地方の警察を、高度に訓練された中央警察が補完する形をとっている場合がほとんどである。もちろん、国家レベルの高次警察任務を担うのは主に中央警察である。ヨーロッパの警察官は銃で武装するのが一般的だが、地方の警察に比べると中央警察はかなり高度に軍事化されている。ほとんどの中央警察は高度な武装を有しており、軍に匹敵するほどの集権的構造を持っている。フランスの『国家憲兵(”Gendermarie”)』は長らく防衛省の管轄であったほどだ(2009年に内務省に移管した)。基本的には以下の要素が性格を決定づけるものとされている。

ヨーロッパの国々では、脱走したカピバラを追うとすれば地方警察の可能性が高い。その上で、政府を著しく脅かすカピバラが現れた場合にのみ、憲兵隊をはじめとする中央警察が情報を収集し、先回りして対処するだろう。

大陸ヨーロッパ型警察の三要素:

・正当性:コミュニティーとの社会契約よりも、中央体制との結びつきが強い
・構造 :英米より集権的で軍事的な側面が強く、地方警察と中央警察が任務を分担
・機能 :コミュニティーの任務に加えて、政治・行政の影響を受けた任務を帯びる

 

後編に続く

カピバラの写真

前編では旧型、アングロ・アメリカ型、大陸ヨーロッパ型の警察を紹介してきたが、皆さんの印象はどうだろうか?アメリカで射殺事件が起こっている論理や、パリの暴動に対応する警官が重武装している背景が少し見えてきたのではないだろうか?警察や犯罪に関する記事は一般的に不人気の傾向があるが、とってつけたようなカピバラ目線の解説を通じて少しでも和やかにお伝えできたら幸いだ。

次回の『カピバラを軸に、世界の警察を語る(後編)』では、旧ソヴィエト連邦の国々を中心とする旧共産・共産圏型、日本を含む極東型、そして最近になって提唱されてきたイスラム型の警察について解説しようと思う。

この記事は「カピバラを軸に、世界の警察を語る。」の前編です。今後の記事をお届けするためにも、右側のサイドバーおよびページ最下部のアイコンからSNSをフォローしてくだされば幸いです

  • Mawby, R. I. (2013). Policing across the World: Issues for the Twenty-first Century. Routledge.
  • Schwartz, R. D., & Miller, J. C. (1964). Legal evolution and societal complexity. American Journal of Sociology70(2), 159-169.
  • Hoebel, E. A. (2009). The law of primitive man: A study in comparative legal dynamics. Harvard University Press.
  • Mawby, R. I. (2012). Models of policing. In Handbook of policing (pp. 45-74). Willan.
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この記事の投稿者情報

竹本智志
竹本 智志

専門分野:犯罪科学(警察学)・近代思想
ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)、ジル・ダンド研究所の保安・犯罪科学部に学ぶ。
紫洲書院の出版部を担当し、運営実務を統括する。

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