Cell

細胞生物学ことはじめ

著者:君付 龍祐

著者:君付 龍祐

生物の最小単位は細胞だ。人間であろうと植物であろうと、目に見えない細菌に至るまで生き物の体は全て細胞でできている。つまり生命の不思議に迫るためには、細胞がどのように機能するのかを解き明かすことが不可欠である。今回は人間(動物)の細胞に着目し、細胞の中のさまざまな器官やそれらの働きを紐解いていきたい。なお本記事におけるそれぞれの細胞器官の紹介の順序は理解しやすいように並べたものであり、細胞ができた順番などを示唆するものではない。またこの記事では内容を理解しやすくするために擬人化を多用しているが、実際の細胞器官は化学物質の集合で、それぞれ化学反応を通して関わり合っている。

目次
  1. 細胞膜:細胞を守るバリアー
  2.  タンパク質:細胞の働き手
  3.  DNA:タンパク質の設計図
  4. RNA:タンパク質の製造要員
  5. 細胞骨格:細胞の大動脈かつ支柱
  6. ミトコンドリア:細胞の発電所
    参考文献

1. 細胞膜:細胞を守るバリアー

細胞膜の3Dモデル。大きく膨らんでいるのが、化学物質の出入り口(出典:TurboSquid

細胞膜は細胞の外壁にあたるパーツである。私達の体は固体であるため、細胞膜も当然ながら頑丈だと思われるかもしれないが、実際には脂のような分子でできた、比較的液体に近いものである。皆さんも経験上、油と水は分離するものであることはよくご存知かと思う。しかし人間の体の約60%を構成する水と完全に分離しているようでは、膜としての役目を果たせない。そのため、細胞膜の脂は水と分離する性質を持った部分(疎水基)と、水に溶けやすい部分(親水基)の両方を持っている。同じような構造を持った物質として、石鹸や洗剤が挙げられる。これらも疎水基と親水基を持っているため、油汚れをしっかりと吸着する一方で、水で洗い流すことができる。そのように細胞膜では、疎水基と親水基が二重に整列してシート状になることで、膜の両サイドは水と関わりあい、膜の中は水を寄せ付けない構造になっている。このような構造をとることで、水やその他の物質が膜を通り抜けることを防いでいるのだ。

とはいえ細胞の外と全く物質のやりとりがないわけではない。例えば私達が摂取する栄養や酸素は、細胞内に取り込まれてからエネルギーに変えなければいけないし、老廃物などは自然には消えないので細胞の外に出さなければならない。細胞の内外で物質が行き来することは、生命活動に不可欠なのである。酸素などの小さな分子はほとんど障害なく膜を行き来することができるが、比較的大きな栄養素などはそうはいかない。そのため細胞膜にはタンパク質でできた穴や、特定の物質を捕まえて取り込む構造がたくさん存在している。ウイルスという存在は、このような栄養の取り込み構造を「悪用」して細胞内に侵入する。ちなみにDNAを含む最も重要な核は、核膜と呼ばれる追加の細胞膜で二重に守られている。

2. タンパク質:細胞の働き手

タンパク質は長い鎖のような構造。

生命は化学反応の連続からなっている。食べ物に含まれる様々な分子を分解し、体内に取り込み、これをもとにエネルギーを取り出したり体を作り上げたりすることで生命を維持しているのだ。その点から、生物は細胞という非常にシステマティックな化学反応装置の集合体といっても過言ではない。そしてその化学反応を調節しているのが、タンパク質で組み立てられた酵素と呼ばれる物質である。

そもそもタンパク質とは、約20種類のそれぞれ異なるアミノ酸で構成された化学物質だ。これらのアミノ酸をいろいろな形に組み合わせることで、さまざまな機能を発揮するタンパク質が生み出される。電子パーツを組み合わせることで、扇風機にも冷蔵庫にもパソコンにもなるようなイメージだ。こうしてできたタンパク質は、大きく二つの働きを持つ。一つは先述のように体内の化学反応を調節する酵素としての役割だ。酵素はそれぞれユニークな形を持っており、体内で不足している化学反応を進めたり、逆に過剰な反応を遅らせたりすることができる。またそのように化学反応を調節するために自らの形を変えることができるのも酵素の大きな特徴だ。そして酵素と並ぶもう一つの働きが「構造タンパク質」だ。名前から想像できるように、髪の毛や筋肉の繊維など、体の構造を作るタンパク質である。構造タンパク質は酵素とは異なり、ほとんどが決まった形を持っている。なお先述の細胞膜の栄養取り込みをつかさどるタンパク質のように、酵素とも構造タンパク質とも異なる機能を持った、変わり者のタンパク質も多く存在している。

このように不眠不休で働き、生命を維持するのに欠かせないタンパク質だが、その活用方法には大きな問題がある。まずタンパク質には非常にたくさんの種類がある。その上、全てのタンパク質が一つの細胞で使われる訳ではない。例えば食べ物を分解する消化酵素が筋肉の中にあっても困るだけだ。またほとんどのタンパク質は細胞の中で消費されてゆくため、新たなタンパク質を常に作り続けなければならない。そうなると、消費されていく分のタンパク質を細胞の中で常に作り続けて補っていく必要が生じる。このプロセスの設計図に当たるのがDNAだ。

3. DNA:タンパク質の設計図

DNAの二重らせん構造は生命の設計図。

DNAはタンパク質の設計図であり、その中には体を作る細胞の一つ一つに必要なすべてのタンパク質の設計図が詰め込まれている。つまりこのDNAの中の情報を読み解くことができれば、理論上はどのような細胞でもタンパク質で一から作り上げることができるのだ。この性質を応用したのがiPS細胞などの再生医療である。

DNAはヌクレオチドと呼ばれる塩基(有機物)で構成されている。これらはアデニン・グアニン・シトシン・チミン(以下A・G・C・T)の4種類が鎖状に連なったもので、タンパク質を組み上げるアミノ酸の種類は、これらの物質の組み合わせで指定されている。約20種類もあるアミノ酸を、たった4種類の塩基で指定するのは難しいようにも思える。しかしそれを解決する方法は意外にも簡単で、連続する3組の塩基の並び方で一つのアミノ酸を指定するというものだ。もし一つの塩基のみに着目すると、これにはA・G・C・Tのどれかに該当するため、可能な組み合わせは4通りとなる。しかし連続する2つの物質に注目すると、4通り×4通りで合計16通り、3つになれば4通り×4通り×4通りで合計64通り、というふうに、より多くの情報を表すことができるようになる。(余分な組み合わせは同じアミノ酸を指定するのに使われる)。

DNAはすべてのタンパク質の設計図であるため、人体が正常に働くには常に正確でなければならない。DNAの欠陥により通常と異なるタンパク質が作られてしまうという現象がいわゆる突然変異であり、このようにして生まれた個体は必ず生き残りに適しているとは限らない(たまたま生き残りに適した個体が生まれてくると、進化と呼ばれる)。そのため突然変異のような過剰な変化を防ぐために、DNAには様々なエラー対策が施されている。その一つが、教科書にものっているお馴染みのDNAの二重らせん構造だ。二重らせん構造は文字通り、塩基が鎖のようにつながった2本の「DNA鎖」がらせん状になっているものである。先ほど出てきた4種類の塩基のうち、AとT、GとCはそれぞれパズルのピースのようにうまく噛み合う「形*」を持っており、片方の形がもう一方の形にすっぽりとはまるようになっている。この構造が安定したDNAの複製のキーポイントなのだ。まずA・G・C・Tの塩基そのものは、水やイオンなどとくっつきやすい性質を持っている。そのため、そのままで並べてしまうと、塩基と他の物質が結びついてしまい、いざというときにDNAの情報がうまく活用されなくなってしまう可能性がある。しかし塩基を二重らせんに配置することで塩基同士が組み合わさったまま保管され、この状況を避けることができる。また、仮に何かの拍子に二重螺旋の片側に欠陥ができたとしても、もう一方の鎖とうまく組み合わなければ(組み合わないパズルが浮き出すように)異常を探知できるため突然変異を未然に回避することができるのだ。

さらにDNAを二重らせん構造にしておくことで、親から子への遺伝や細胞の複製も簡単になる。通常1つのタンパク質は、数百から数千ものアミノ酸でできており、体内にはそのような巨大なタンパク質が約10万もあると言われている。そうなればDNAはとても長くなることは容易に想像できるだろう。実際に人間の体を構成するために必要なDNAでは、約60億対の塩基を組み合わせることが必要だと言われている。ここでお互いの鎖がもう一方の鋳型となっていることで比較的単純かつ簡単にDNAのコピーを作ることができるのだ。「さけるチーズ」で、一本一本分解することができるようになっているために食べやすい。さけるチーズがもしとても長い一本でパッケージに入っていたら、食べにくいことこの上ないだろう。DNAもこれに似て、二重らせん構造を持っていることでスマートにコピーを作ることができるようになっているのだ。

このようにして私達のタンパク質の設計図として重要な役割を果たしているDNAだが、設計図があるだけでは勝手にタンパク質が作られるわけではない。この設計図を解読し、それを元にタンパク質を作る、いわば「作業員」のような存在がRNAである。

 

*ここで「形」とは物理的な形ではなく化学的に安定した形のことを指す。塩基はそれぞれ水素結合と呼ばれる方法で対をなしている。

4. RNA〜タンパク質の製造要員〜

RNAの一重らせん構造。

RNAはDNAと同じくヌクレオチドでできており、基本的にDNAそのものに非常によく似た構造をしている。しかしTの代わりにU(ウラシル)が使われているなどDNAとは少し異なった点を持っており、この構造によりRNAの役割を果たす重要な性質を獲得している。

RNAには主に3つの種類があり、それぞれに役割分担がなされている。DNAの情報を解読するmRNA(メッセンジャーRNA)、部品(=アミノ酸)を運搬するtRNA(トランスポートRNA)、そして解読された情報と運ばれてきた部品をもとにタンパク質を組み上げるrRNA(リボソームRNA)である。

まずmRNAは、DNAの中に格納されている約十万のタンパク質の設計図の中から、新しく作るタンパク質の情報を読み出し、コピーする。この作業は転写と呼ばれる。先述の通り、RNAはDNAと非常によく似ているため、DNAの塩基の形を鋳型のような構造を活用しながら必要な部分をコピーするのだ。そうしてmRNAにコピーされたDNA情報からは、先ほどの通り連続した3つの塩基の並び方に応じてどのアミノ酸を使えば良いかということが読み取れる。その後、mRNAは核の外までコピーされた情報を運ぶ。

次にtRNAは、アミノ酸を運搬する役割を持っている。mRNAが核の外まで運んできた情報に基づいてタンパク質を組み立てるために、tRNAはその材料であるアミノ酸を含んでいる。実際にタンパク質を作る際にはmRNAと対になるtRNAが順番にアミノ酸をつなげていく。この作業を翻訳という。

そして最後にrRNAはリボソームと呼ばれる構造体を組み上げる。このリボソームは建物を建てる際の足場のようなものであり、上述の翻訳作業やタンパク質の合成はこの中で行われる。rRNAの主な役割は、タンパク質を作るためのスタート地点(一つ目のアミノ酸)を見つけ、運ばれてきたアミノ酸をポリペプチド結合と呼ばれる化学結合でつないでいくことだ。そのようにして編み物のような構造が編まれていき、やがてさまざまな機能を持ったタンパク質が完成するのだ。

このようにして作られるタンパク質だが、すべてのタンパク質が細胞内で使われるとは限らない。また私達からは小さく見える細胞でも、タンパク質の粒子から見れば広い世界であり、それぞれ適切な位置まで運ばれる必要がある。この段階で重要となるのがゴルジ体だ。

ゴルジ体は、いわば細胞内の物流センターだ。ゴルジ体は膜に覆われた平坦な袋状の形をしており、細胞内で作られたタンパク質を包み込んで梱包し、それぞれの目的地に向けて発送する。それらの多くは細胞骨格と呼ばれる構造に沿って運搬される。

5. 細胞骨格:細胞の大動脈かつ支柱〜

小さな細胞世界を支えるインフラストラクチャー。

細胞骨格の役目は大きく2つある。一つは細胞内の物質を運搬する、いわば高速道路のような役割で、もう一つは柔軟な細胞を支え、形を作る骨組みとしての役割だ。

物質の運搬自体を担っているのは分子モーターと呼ばれ、あたかも人工的に作られたかのように見える奇妙な物質だ。これらは運搬したい物質を掴み、ATPという細胞のエネルギー通貨を使うことで、細胞内に張り巡らされた細胞骨格にそって「歩いて」いく。運搬されるのは作られたタンパク質とは限らず、他の細胞器官も含まれる。

そしてもう一つの役目が細胞の形を支える骨格としての役だ。先述の通り細胞膜は液体質で、自由に形を変えることができる。しかし多くの細胞は一定の形を保つ必要があり、それを担うのが細胞骨格である(なお植物や細菌には細胞壁という頑丈な外膜を持っているものもある)。細胞の中にはアメーバのように自在に形を変えながら移動するものもあり、それを実現するため細胞骨格は伸縮できるようになっている。

さらにこの両方の性質を利用することで、より幅広い細胞活動を行うこともできる。例えば細胞が分裂する際には細胞骨格が細胞膜の形変えながら引き離しつつ、細胞内の様々な器官を分離していく細胞に振り分ける、というように。

5. ミトコンドリア:細胞の発電所

細胞のエネルギーを作り出すミトコンドリアは、実は「よそ者」。

ここまで紹介してきた細胞の様々な器官は、それぞれ細胞が生きる上で重要な役割を担っているが、いずれもエネルギーがなければ機能することはできない。細胞内のエネルギーはATPと呼ばれる通貨を通してやり取りされる。ATPは私たちが摂取する栄養素を分解し、酸素と結びつくことで作られる。代謝と呼ばれるこのプロセスでは、ATPのみならず副産物として二酸化炭素と水も作られ、これらは体外に排出される。

ミトコンドリアは他の細胞の器官とは異なり独自のDNAを持っていたり、自身の細胞膜を有したりする。このような特徴から、私達の遠く祖先の動物(厳密には真核生物)にはミトコンドリアはなく、酸素を使ってエネルギー生成を行える細菌を体外から取り込んで共生したのではないかと言われている。これは細胞共生説と呼ばれる学説で、より大きな生物の細胞がミトコンドリアに居場所を与えて保護する代わりに、エネルギーを作ってもらうというギブ・アンド・テイクの関係であるというものだ。なお植物ではミトコンドリアの他に葉緑体も同じような性質を持っており、同様に細胞内で共生するようになったのではないかと考えられている。

6. まとめ

いかがでしたでしょうか?実際の細胞がどのように機能しているのかをみたい方はこちら(https://www.youtube.com/watch?v=B_zD3NxSsD8)をご参考ください。実際の細胞の中で起こっていることは、ここで書いたものよりもはるかに複雑で、一人の人間では理解も追いつかないほどのものです。昔は未知のかたまりであった生物学も、最近は技術の進歩により多くのことがわかってきており、一般向けの書籍も徐々に増えてきました。もし興味の湧いた方はぜひ少しずつ理解を深めてみてください。

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この記事の投稿者情報

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君付 龍祐

専門分野:古生物学・サイエンスコミュニケーション
カナダ、アルバータ大学の生物進化・環境・生態学科を経て、同大学の古生物学科に在籍。高校時代から古生物学の研究を行う。

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