都市は技術によってアマゾンになれるか Vol. 1 – 第三編

生命や森林システムに対する科学的理解が進んだことにより、都市と森林の物理的・化学的・構造的な違いや共通点が解明されてきた。加えて、森林にあって都市に不足していた要素を補い、逆に森林にはない公益機能を備えてゆくために必要なテクノロジーがようやく揃いつつある。

都市を森林の新しいカタチへ進化させる可能性を模索する本シリーズ。第1回第三編の本記事では、環境から抽出したエネルギーを用いて、二酸化炭素を有用な材料として固定化・高機能化する技術にフォーカスする。(トップ画像:劇場版アニメーション「HARMONY」より引用)

前第二編では光合成に対応する技術に注目したので、この第三編では、捕獲したエネルギーを用いて材料を生産する化学技術(「暗」反応)に類似する、人類の技術を紹介する。捕獲した二酸化炭素を地下貯蔵するのではなく、構造体や機能性を持たせて活用する手法である。これには植物の生産能力を農業や林業的に活用してゆく、という方法も改めて再評価が求められる。

この記事は「都市は技術によってアマゾンになれるか」の第三編です。第一編はこちらから、第二編はこちらからどうぞ。

6. 人工的な暗反応、その一:二酸化炭素固定

まずは、大気中の二酸化炭素を捕獲し、地上に固定するプロセスに注目する。

Climeworks社のDACは、一辺約2 mの立方体のような機械だ。この設備は、年間で約 50トンの二酸化炭素を大気中から捕獲することができる。驚くべきことに、これは広葉樹約 50 本分の吸収量に匹敵する。この程度の寸法であれば、一般の戸建て家屋であれば二台程度設置できるであろうし、高層ビルなどになれば数十機単位で収容できるだろう。例えば、54階建ての六本木ヒルズが各フロアに一台ずつのDACを備えたとすれば、頼もしいことに2700本分の樹林に相当する二酸化炭素を吸収することができる

こうして回収された二酸化炭素は、当面は気体ではなく固体の状態で地上に保管することが望ましい。例えば、ロイヤルメルボルン工科大学で開発された炭素固定技術は、液体金属を触媒とするなどの画期的な手法によって二酸化炭素を石炭のような固体にすることができる。この技術をDACと併用することで、二酸化炭素を地下で効率的に、かつ安定的に保管することが可能となるだろう(Esrafilzadeh et al., 2019)。 

Climeworks社のDAC (Direct Air Capture) 一つ一つのセルが樹木50本分の炭素固定に相当する能力を持つ(Grist誌web記事より引用)

7. 人工的な暗反応、その二:炭素による物質生産

今後数世紀やそれ以後の未来に温暖化が過剰になりすぎないためにも、炭素は長期間にわたって大気から隔離および固定することが望ましく、地下へ貯蔵するCCS(Carbon Capture and Storage)手法も盛んに行われている。しかし見方を変えれば、二酸化炭素もまた石油と同じく炭素でできた有機化合物であり、生態系にとっても、人類にとっても、大変有用な資産となりうる。固定した二酸化炭素をただ地下に遊ばせておくのは合理的とは言えない。最終的には、工業用マテリアルや食材の生産などに活用するのが理想的だ。樹木が二酸化炭素を自らの組織の一部として固定させ、成長してゆくのと同じように、インフラや建築物のかたちで炭素を百年単位で固定することが求められる。構造物として有用な形で固定化する方法をあえて表現するならば「炭素の高次固定:FCS “Functional Carbon Storage”」と呼べるだろう。

空気から構造体を構築する植物という「技術体系」

前出のロイヤルメルボルン工科大学の研究では、回収・固形化された炭素は高性能なコンデンサ(電子回路に不可欠な小型部品であり、電気自動車などの大型蓄電池でも用いられる)を生産できるとの提言を伴っている。また、事前に回収した炭素の純度を向上する加工を行えば、近年注目される「炭素繊維」、「グラフェン」、「カーボンナノチューブ」といった新しい炭素系素材の生産の原材料として利用することも可能となる。これらはろ過膜、浄化膜(バイオフィルムを纏わせる技術など)、電子部品、機械部品、建材まで多様な用途に活用できる(なお、カーボンナノチューブは日本で発見され、さらに日本で初めて量産が可能となった世界最高強度の素材であり、電気的・熱的にも極めて有用である)。

ただ、現状ではこれらの素材は、電子機器や機械、車や飛行機といった数年〜十数年単位で破棄される製品に使用されることが多い。工学的な観点からは、高い性能を持つ炭素材料を多用することによって、省エネルギー化、排熱の低減、軽量化などのメリットをもたらすことができる。しかし一方で炭素固定の観点から見れば、短期で破棄されるケースが多い限り、安定的に炭素の再資源化ができているとは言えない。次の数十年にはより効率的な炭素の再資源化を実現する技術が育つことも期待できる。しかしそれらが商用化されるまでは、こうした炭素の用途はこと“CFS”にかけては役不足といえよう。

薄いアルミフレームに織り上げた炭素繊維の「布」を満遍なく固着させることで、十分な強度を確保しつつこれほどの軽量化を可能としている(ライブドアブログ記事より

この問題点を補うため、それらの炭素素材を長期使用に耐える建造物に活用する動きも広がってきている。例えばカーボンナノチューブなどは建物の構造強化への応用も検討されており、大林組などが推進する「宇宙エレベーター」の基本的な建材として有望視されている。また、清水建設が構想する海中都市「Ocean Spiral」の建材として想定されている「樹脂コンクリート」もまた、炭素由来の材料を利用する新素材だ。繊維メーカーの帝人は、集成木材に炭素繊維の束を組み込むことで、華奢な外見でも鉄骨造をしのぐ新しい木建材AFRWを開発した。さらにCarbon Cure社は、コンクリートの固化プロセスの中で二酸化炭素をコンクリートに封入する技術を開発した。すなわち、封入された二酸化炭素がコンクリート自体の強度を向上するという仕組みだ。コンクリートは適切に扱えば100年程度にわたって活用できる。“CFS”の選択肢として有望であると言えるだろう。

清水建設が大真面目に構想している海中都市 Ocean Spiral (清水建設HPより)

8. 生物による光合成の活用

以上のような多くのプロセスは、個別の効率やスケーラビリティにおいて植物や光合成生物のそれを超えるものも多い。しかし一方で、27億年にわたって発展してきた生物の光合成技術の存在も、その性能において決して無視できるものではない。むしろ現状の人工技術が到達できない様々な特性を、生物由来材料は発揮する。そしてそれらは、すべて炭素の固定を通して得られるものである。中でも長期使用に耐える建材として利用しうる生物由来材料は、人類の加工技術の発展のおかげもあり近年特に多様な形で利用できるようになってきた。

まず植物由来の建材として最初に思いつくのはやはり「木材」であろう。木材は数千年の長きにわたり、世界の建築物の基本材料でありつづけてきた。日本には法隆寺や東大寺、出雲大社などが現存しているし、欧州のゴシック教会の屋根は今でも木造である。

近年では、その防腐・耐炎化処理の技術も成熟してきており、木材を大規模な構造に使用するという動きが世界的に活発化している。こうした建造物には、細いく細切れの木材を貼り合わせた集成材 “engineered wood / laminated timber” が用いられ、その太さと強度から鉄骨と並んで「木骨」と称される。ノルウェーでは現時点の木造建築で最高である85 mの複合施設(Mjøsa Tower)が完成した。ロンドンでは、高さ 300 mの超高層ビル(Oakwood Timber Tower)をほぼ完全に木造で建てる計画がすでに進行中であり、また住友林業は日建設計と共同で高さ 350 mの木造超高層ビル(W350)を2041年に完成させると発表して、建築界を沸かせた。

住友林業によるW350構想のコンセプトデザイン(建築情報サイトDezeenウェブ記事より)

実際のところ、木材は「単位質量あたり」の引っ張り強度が鋼鉄の約 3 倍、圧縮強度が 3 倍(コンクリートの約10倍)という驚異的な素材である(この強度を「比強度 “specific strength” 」と呼ぶ)。近年では樹脂などを炭素繊維で補強する「繊維強化プラスチック(FRP)」が注目されている。しかし木材に目を向ければ、セルロース繊維の編み込みをリグニンという樹脂が押し固めるという点で、その構造はまさに数億年の伝統を持つ繊維強化プラスチックと呼ぶにふさわしい。

近年このセルロースの部分は、「セルロース・ナノファイバー(CNF)」として世界的に注目されており、鉄の 5 倍の比強度という特性を活かして日本の製紙業や自動車会社も盛んに技術開発・商用化を進めている。また、リグニンの一種が変性して出来る「漆」は、地球上でもっとも生分解・化学分解が困難な、化学的にもっとも安定した炭素ポリマーであり、縄文時代のあらけずりな漆器が5000年を経てほとんどそのまま出土することも珍しくない。これは強度も高く、東京芸大で「構造乾漆」の可能性が研究されている。

世界で初めて、車体骨格や外殻をセルロース・ナノファイバーで構成した「NCV」は、今年の東京モーターショーに「環境省のつくるスーパーカー」として出展された(交通・輸送技術情報サイトNEXT MOBILITYウェブ記事より)

一方、強度と耐久性が高い良質な木材を育てるには時間がかかる。そのため人類の開発スピードに追いつくには広大な森林と長期間の適切な管理が必要である。この課題を解決するのが、世界中に分布している麻という植物だ。麻紐やリネン製品などに使用されることが多いこの植物は、炭素固定と高い材料性能と経済性とを同時に満たす新素材として、今世界中で注目され、盛んに研究が行われている。麻の繊維に、大豆由来の接着剤を用いて”集成材”と同じ加工を施したのが “HempWood” である。驚くべきことに、これは硬い木として知られるナラ材(オーク)を凌駕する強度であったという。また近年、水槽で大量に育てられる藻類の一種を処理して炭素繊維を製造できるようになったMathijsen, 2019)ほか、廃棄される植物の破片から取り出した樹脂(リグニン)を海洋微生物の酵素で処理することで、人工の漆を製造する手法Ohta, 2019)が開発されるなど、頼もしい技術開発が相次いでいる。

HempWoodのフローリングへの実装例(情報サイトGanjapreneurウェブ記事より)

以上、炭素を捕集する技術、炭素を高度に機能的な材料や素子として用いる技術、そして生物材料に含まれる機能性の炭素材料を活用する技術を紹介した。それぞれに非常に有望であり、また商用化も順調に進んできている。冒頭の美しい建築物は、故・伊藤計畫氏のSF小説HARMONYをノイタミナがアニメーション映画にした際描かれた、未来の日本である。美しくまた力強い文明が、炭素の高次利用(FCS)によって実現する未来を待望したい。

  • Ohta, Y. (2019). 海洋微生物からの有用機能の探索とその応用. 日本農芸化学会. [online] Available at: http://www.jsbba.or.jp/wp-content/uploads/file/award/2018/award_abstracts_2018_ohta.pdf.

  • Esrafilzadeh, D., Zavabeti, A., Jalili, R., Atkin, P., Choi, J., Carey, B., Brkljača, R., O’Mullane, A., Dickey, M., Officer, D., MacFarlane, D., Daeneke, T. and Kalantar-Zadeh, K. (2019). Room temperature CO2 reduction to solid carbon species on liquid metals featuring atomically thin ceria interfaces. Nature Communications, 10(1).

  •  Mathijsen, D. (2019). Algae to sustainably produce carbon fiber and simultaneously take CO2 out of the atmosphere. Reinforced Plastics.
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この記事の投稿者情報

竹村泰紀
竹村 泰紀

専門分野:工学・建築
慶應大学理工学部機械工学科を卒業後、ロンドンにて建築を学ぶ。
AA (英国建築協会付属大学)修士課程に在籍。独学で地球環境学・生態学・分子生物学などを学び、次世代の開発理論を模索する。
紫洲書院のチーフアドバイザーを務める。

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