たとえば、5億年前の地球をのぞき見るには? ~古生物の系統学・環境学~

著者:君付 龍祐

著者:君付 龍祐

今日、恐竜の化石の発見が相次ぎ、古生物学が多くの人に注目されるようになってきた。筆者自身も古生物学を学んでいる一人だ。しかしそもそも古生物学とはどんな学問で、何を目的としているのだろうか。今回は古生物学とは何かについて掘り下げていきたい。(この記事は「古生物学入門」の後編です。前編はこちら

3. 系統学 〜生物はどこから始まりどこへ向かうのか〜

系統学とは簡単にいえば生物の進化の過程の研究だ。私たちは何から進化したのか、最初の生物は何なのか、生物がこの先どのように進化していくのかといった誰もが疑問に思っている問題に挑む。また新たに発見された生物を分類するのも系統学の一つであり、現生に生きる生物と古代の生物をひとつづきの歴史の上でつなげて考えるための重要な研究である。

系統学には主に2種類のアプローチがある。一つは化石からその生物の特徴を引き出し、比較する方法だ。この方法は昔から行われており、ユニークな特徴を持つ生物を分類するのに非常に役に立つ。ただこの方法には大きな問題が存在する。ある現代の生物を別種として分類するべきか否かを判断するための一つの指標として、他の生物と交配した際に繁殖力のある子孫を残せるかどうかというものがある。例えばトラとライオンを親にもつライガーは子供を残すことができないため、繁殖力がないと言える。故にトラとライオンは別の種として考えることができる、というような具合に。しかしこの指標を用いることができるのは、当然ながら現代の生物に限られる。どれだけ緻密な観察を行っても、化石からそのことを知ることはできないからだ。そのためそれぞれの化石の形態的な特徴から分類をすることになるわけだが、それにはどうしても不確実性が付いてまわる。

まず化石に見られる特徴は単なる個体差によるものかもしれない。例えば古人類学では似たような化石を見せられた際に6種類ぐらいに分類しようとする人もいれば、大きく1種類した上で、細かな違いは全て個人差だと主張する人もいる。また進化の過程で全く別の種類の生物が同じような特徴を持つこともある。すなわち同じような生活環境を持つ別の種の生物が、一見似たような特徴を持つことがあるのだ。例えば、さまざまな種の中で翼を獲得した脊椎動物は、翼竜・鳥類・哺乳類(コウモリ目)の大きく3種類に分けることができる。これらの生物はたしかに翼を持つという特徴を共有しているものの、それぞれがたどってきた進化の過程は大きく異なるため、安易に同じ種に分類してしまうことはできない。幸いにもこれら3種類は翼の形を詳しく見れば比較的簡単に見分けることができるが、現代の生物の中においても判別が難しい特徴を持つ種がたくさんある。化石からの情報のみを頼りにした場合、このような形態にもとづいた分類はなおさら難しくなる。化石の特徴だけで分類する際には上記2つのようなことが十分に起こりうる。

また、次のような極端なケースもある。それはアノマロカリスと呼ばれる生物の分類だ。アノマロカリスはカンブリア紀の海に生息していた捕食性の生物で、体に二本の腕と円形の口を持っていたとされる。この化石が発見された当初、そのフォルムがあまりにも独特であることから、いくつかの別の種類の生き物が偶然にも重なり合った状態で化石になったものだと考えられていた(胴体=ナマコ、腕=エビ、口=クラゲと考えられていた)。しかし後からこれらが一体となった化石がいくつも見つかったことにより、初めて現在の姿であることが分かったというのだ。アノマロカリスのケースに見られるほどの大きな誤解はほとんどないとしても、現代の生物と大きく異なる外見や構造を持っていた生物を、ましてや必ずしも保存状態が均一でない化石から判別するのは非常に難しいのである。

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古生物学の知識を元に作られたアノマロカリスの想像図。

そこで出てきた新たな手法がDNAを使った分析手法だ。DNAはいわば生物の「設計図」であり、生物の種類が変わればそのDNAも変わってくる。また数万年前の生物であれば、条件がよければ化石とともにDNAも保存されていることもあり、それらを調べることでほぼ確実に生物の種類を断定することができる。最近ではわずか数本の歯と指の化石から取り出されたDNAを元にデニソワ人と呼ばれる新種の人類が判別された。化石だけであれば種類の判別はほとんど不可能に近いが、DNA分析という非常に強力なツールを使うことで新種を的確に見つけることができるのだ。またある生物のDNAの性質を利用すれば、共通の祖先から進化した2種類の生物(例えば人間とチンパンジーなど)のDNAの違いから、それらがどの時代で別の種に分岐したかを予想することさえできる(分子時計と呼ばれるこの手法はまた別の記事で取り扱いたいと思う)。ただDNAの分析も完璧ではない。骨などとは違い、DNAは時間がたてばたつほど残る可能性が低くなる。そのため恐竜のDNAを見つけることができるのはまだまだ先の話、あるいは一生こないかもしれない。

(左)デニソワ人の化石の復元モデル(Carl, 2019)
(右)分析を元に復元されたデニソワ人のポートレート(Handwerk, 2019)

現時点で地球上に生息している生物ですら、そのほとんどは未だに発見されていないと言われている。最初の生命が現れてから41億年、また最初の動物が現れてから10億年以上が経っていることを考えれば、我々が系統学によって得た古生物の種類に関する知識は氷山の頂上を削っただけに過ぎないと言えるだろう。

4. 環境学 〜古生物はどのような環境に生きていたのか〜

古生物たちが一体どのような環境に生きていたのかを調べるのが環境学だ。ここまでに紹介した生態学と系統学の手法を用いれば化石を元に環境を知ることもできるが、またその化石が発見された場所の地質の特徴などからも調べることもできる。それらの二つを組み合わせて環境を解き明かすのが環境学だ。

化石から古代の環境を調べるには大きく2種類のアプローチがある。一つ目は示相化石の活用である。示相化石とはどのような環境に住んでいたかあらかじめわかっている生物を使う方法である(それらは後に述べる手法、あるいは原生の近縁種と比較して割り出される)。言い換えれば、環境の指標として特定の化石を利用することができるのだ。一般に示相化石となる種類の生物は、特定の環境に生息していることが望ましい。例えば人間のようにあらゆる環境に適応して地球上のさまざまな場所で生活できる生物は、環境の指標には不向きである。それとは逆に、温暖な海にのみ生息することが知られている魚は示相化石に向いていると言える。また読者の中にはこのような示相化石と並んで、示準化石というものを聞いたことがある人がいるかもしれない。示準化石は環境ではなく特定の年代に生きていたことが知られている生物の化石だ。これらは現れた年代・絶滅した年代がこれまでの研究ですでに分かっている生物が用いられ、この化石が見つかればその地層の年代を大幅に絞り込むことができる。またその特性上、示相化石とは異なり、様々な環境に適応できた生物が好まれることが特徴だ。例えばヒトの化石が見つかれば、少なくとも30万年前よりも新しい地層だと分かる*。

(左)典型的な示相化石であるサンゴの化石
(右)典型的な示準化石である三葉虫の化石 (Wikimedia Commons)

化石から古環境を調べるもう一つの方法が同位体の測定である。簡単に言えば化石を構成している原子の組み合わせから環境を調べるという方法である。同位体というのは同じ元素であるにも関わらず、異なる性質を示すものである。古生物学で古代の環境を分析する際には、酸素の同位体がよく用いられる。空気中に多く含まれており、我々が一般的に「酸素」と呼んでいるのは酸素16(16O)と呼ばれる物質だ。そして酸素16には同位体である比較的重い酸素18(18O)が存在する。酸素18の原子は、酸素16に比べて氷に取り込まれにくいという性質を持っている。つまり地層の中に存在する18Oと16Oの比率を見れば、その時代にどれだけ氷があったかがわかり、結果的に地球全体の気温も推定することができる。他にもそのような同位体の存在比率を用いて年代を求める手法など、さまざまなアプローチがこれまでに開発されている。

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アメリカ、キャピトル・リーフ国立公園の鍵層(Wikimedia Commons

次に、地質的な特徴から環境を推定する方法を紹介しよう。これは化石そのものから情報を得ることができなくても環境を推定することができるため、非常に便利な方法である。例えば地層の表面から波打ったような形が見つかれば、その場所では昔水の流れがあったことが推測できる。さらにその波の形からどの方向に流れていたのかも知ることもできる。またもし火山灰が見つかれば付近で噴火があったことが分かる。また火山灰からは、いつ・どのような噴火があったかなどの情報を特定することも可能だ。このような特徴をもった地層は鍵層と呼ばれる。このようにして化石と地層の両方を組み合わせながら環境の変化を紐解くのが環境学だ。

ではなぜ古環境を調べる必要があるのか。その答えは温故知新という四字熟語で説明できる。故きを温め新しきを知る、つまり未来を予測するには過去を分析することが欠かせないのだ。現在、地球は気候変動の真只中にある。これに関して懐疑的な人がいることは事実だがそれについては別の記事で深く考察したい。気候変動を止めようと努力することも可能だが、相手は地球である。人間の力だけで全てを思い通りに動かすのは、少なくとも現在では不可能だ。しかし今後起こりうることを予測しそれに対応することは可能である。そのためには過去の地球がどのような状態だったのか、何が原因でどのように変化したのかを調べることが必要であり、古生物学はそのための重要なツールとなる。将来の人類の存続の鍵は実は古生物学が握っているのかもしれない。

*実際には様々な要素を考慮する必要があり、必ずしも30万年前よりも新しいとは限らない。興味のある方はぜひ古生物学を深く学んでほしい。

⒌ 古生物学を学ぶ

今回の記事では古生物学がどのようなものなのかを見てきた。ではどうすれば古生物学を学ぶことができるのだろうか。まず理解していただきたいのが、古生物学はここまで上げてきた生態・系統・環境の3分野が全てではない。また古生物学者として3分野のどれか一つを極めればよいというものでもない。例えば古生物の生態を知るためには当時の環境を知る必要があり、他の古生物との関連性を知るにはどのような生態だったのかも知る必要がある。そのため古生物学を学ぶには生物学と地学の基礎〜応用に加え自分が特に興味を抱いている内容の専門的な知識をバランスよく身につける必要がある。また実際にフィールドに足を運び経験を積むことに加えて、生物の形態がどのような働きを持っていたのかを知るには化学や物理学に関する知識も必要とされる。このように古生物学では幅広い科学の知識が求められる。決して簡単な学問ではないが、やりがいがあることは間違いない。

紫洲書院ではこれからも古生物学の面白さを伝えるための記事を連載する予定である。しかしここで紹介されるトピックの奥深さをを本当に理解するためには、広範な知識や技術を身に付けることが不可欠だ。そのため本当に古生物学を学びすすめたい方は書籍を買い求める、あるいはedXCourseraなどをはじめとする様々なMOOCs (オンライン学習プラットフォーム)を利用してみる、そしてもしできるならば大学で専門的に勉強されることをおすすめする。

参考図書

References

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この記事の投稿者情報

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君付 龍祐

専門分野:古生物学・サイエンスコミュニケーション
カナダ、アルバータ大学の生物進化・環境・生態学科を経て、同大学の古生物学科に在籍。高校時代から古生物学の研究を行う。

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